
利益だけでは組織は動かない。ドラッカー『非営利組織の経営』に学ぶ、会社の羅針盤

「利益目標は達成しているのに、なぜか社内に閉塞感が漂っている…」
「日々の業務に追われ、会社の進むべき方向性が見えなくなっていないだろうか?」
中小企業の経営者様、経営企画の担当者様であれば、一度はこのような悩みに直面したことがあるのではないでしょうか。目先の数字を追うことはもちろん重要です。しかし、それだけでは社員の心は一つにならず、持続的な成長のエンジンとはなり得ません。
実はそのヒントは、一見すると無関係に思える「非営利組織」の経営に隠されています。
この記事では、経営学の父、ピーター・ドラッカーの名著『非営利組織の経営』のエッセンスを紐解きながら、利益追求の先にある「企業の羅針盤」の見つけ方を解説します。読み終える頃には、自社の存在価値を再確認し、明日からの経営に活かせる具体的な視点が得られるはずです。
なぜ今、ドラッカーの『非営利組織の経営』が中小企業経営者に刺さるのか?
「なぜ、営利企業である我々が、非営利組織の経営を学ぶ必要があるんだ?」
そう思われるかもしれません。しかし、ドラッカーは本書で、「非営利組織に学ぶべき最大のものは、ミッション(使命)への集中である」と看破しています。
考えてみてください。利益という分かりやすい指標を持たない非営利組織は、その存在意義、つまり「何のために存在するのか(ミッション)」が活動のすべてを支える生命線です。ミッションが明確でなければ、資金も人材も集まらず、組織として立ち行かなくなってしまいます。
この「ミッション中心」の考え方こそ、変化が激しく、企業の存在意義そのものが問われる現代において、中小企業が生き抜くための強力な武器となるのです。
利益は、あくまで事業を継続するための「条件」であり、「目的」ではありません。あなたの会社が社会に存在する本当の目的=ミッションは何でしょうか?この問いこそが、社員の心を動かし、顧客を惹きつけ、困難な時代を乗り越えるための北極星となるのです。
あなたの会社を動かす「5つの最も重要な問い」
では、どうすれば自社のミッションを明確にし、経営に活かすことができるのでしょうか。ドラッカーは、組織が自らの存在意義を見つめ直すための、シンプルかつ本質的な「5つの問い」を提示しています。
これは、あらゆる組織にとっての「人間ドック」のようなもの。ぜひ、自社に置き換えて考えてみてください。
問い1:われわれのミッションは何か? 「何のために事業を行うのか」「社会にどのような変化をもたらしたいのか」という、組織の根本的な存在理由を問います。「儲けるため」という答えしか出てこないとしたら、少し危険なサインかもしれません。顧客の生活や社会が、自社の存在によって「どのように良く変わるのか」を言葉にしてみましょう。
問い2:われわれの顧客は誰か? あなたの会社が、本当に貢献すべき相手は誰でしょうか。単に商品を買ってくれる人だけが顧客ではありません。ビジネスを支えてくれる協力会社、そして何より共に働く社員もまた、重要な顧客(ステークホルダー)です。貢献すべき相手を明確に定義することで、打つべき施策もおのずと見えてきます。
問い3:顧客にとっての価値は何か? その顧客は、自社の製品やサービスに何を期待しているのでしょうか。顧客自身も気づいていないような、潜在的なニーズや欲求は何か。顧客の視点に立ち、彼らが本当に「価値」と感じるものを提供できているか、常に自問自答する必要があります。
問い4. われわれの成果は何か? ミッションに基づいた活動が、どのような「良い変化」を生み出しているかを測るものさしです。営利企業であれば売上や利益も重要な指標ですが、それだけではありません。「顧客満足度の向上」「社員の成長」「リピート率の増加」など、自社のミッションが達成されていることを示す定性・定量の指標を持つことが大切です。
問い5. われわれの計画は何か? ミッションを定義し、顧客を理解し、提供価値と成果を定めた上で、それらを実現するための具体的な行動計画です。この計画には、明確な目標、行動、予算、そして実行責任者が含まれていなければなりません。ミッションという「あるべき姿」と、日々の業務という「現実」とを繋ぐ、重要な架け橋です。
「ミッション」を経営の羅針盤にするための第一歩
これらの問いに答えることは、決して簡単ではありません。しかし、このプロセスこそが、経営理念やビジョンを「お飾り」にせず、血の通ったものにするための第一歩です。
まずは、経営陣だけで構いません。この5つの問いについて、時間をとって真剣に議論してみてください。そして、そこで生まれた言葉を、今度は社員に共有し、対話を重ねてみましょう。
「うちはこんな社会を実現したくて、この事業をやっているんだ」 「君の仕事は、お客様のこんな喜びにつながっているんだよ」
経営者の言葉でミッションが語られるとき、社員は自らの仕事に誇りを持ち、日々の業務に新たな意味を見出すはずです。ミッションが社員一人ひとりの「自分ごと」になったとき、組織は自律的に動き出し、想像を超える大きな力を発揮します。
まとめ
今回は、ピーター・ドラッカーの名著『非営利組織の経営』から、現代の中小企業経営に活かせる普遍的な知恵をご紹介しました。
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利益は事業継続の「条件」であり、「目的」ではない。企業の本当の目的は「ミッション」の達成にある。
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「5つの最も重要な問い」は、自社の存在価値を見つめ直し、経営の羅針盤を再設定するための強力なツールである。
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ミッションを社員と共有し、「自分ごと化」してもらうことで、組織は強く、しなやかになる。
もし今、経営の方向性について悩んでいたり、組織の一体感をどう醸成すべきか考えているのであれば、ぜひ一度、立ち止まって自社の「ミッション」について考えてみませんか?
私たち超律経営は、法律と経営の両面から、貴社の「あるべき姿」を共に描き、その実現をサポートする専門家です。経営の羅針盤を見つめ直したい、そんな経営者様の壁打ち相手となります。まずはお気軽にご相談ください。